亜急性甲状腺炎

亜急性甲状腺炎とは?
40~50歳代の中年女性に多い疾患で、ほとんどがウイルス感染により、甲状腺の細胞(濾胞)が破壊され、一過性的に甲状腺ホルモンが上昇する疾患です。背景に橋本病をもっている方もいらっしゃいます。それゆえにあくまでも、一過性の疾患ですが、改善しても、さらに橋本病の治療が必要になる方もいらっしゃいます。(橋本病の治療詳細はこちら)
こんな症状のある方は亜急性甲状腺炎かもしれません
以下の項目に当てはまるものが多い場合は、甲状腺の炎症を疑い、早めに内科・内分泌内科の受診をおすすめします。
- 首の前側(のどの下あたり)にズキズキする痛みがある
- 痛みが飲み込みや頭の動きで悪化する
- 片側だけだった首の痛みが、数日で反対側にも広がった
- 37.5℃以上の発熱が数日以上続いている
- 最近、風邪やインフルエンザにかかった
- 動悸、手の震え、汗が多く出るなどの症状がある
- 倦怠感が強く、普段通りの生活がつらい
- 首にしこり(硬く腫れている感じ)を触れる
- 首の痛みにロキソニンなどの鎮痛剤が効かない
亜急性甲状腺炎の原因
亜急性甲状腺炎(subacute thyroiditis)は、主にウイルス感染に続発して発症する膿を伴わない一時的な甲状腺の炎症性疾患であり、その発症メカニズムには感染後の自己免疫的な炎症反応が深く関与しています。現在までの研究では、全体の約90%がウイルス感染を契機として発症すると報告されています。
関与するウイルスとしては、ムンプスウイルス(流行性耳下腺炎)、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、アデノウイルス、インフルエンザウイルスなどが挙げられており、近年ではSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)に伴う亜急性甲状腺炎の報告も増加しています。
病理学的には、ウイルス自体が甲状腺実質に直接感染しているエビデンスは乏しく、むしろ感染後の免疫系の過剰反応によって甲状腺濾胞が破壊されることが主要な原因と考えられています。これにより甲状腺に保存されていたホルモンや炎症性サイトカインが漏出し、結果的に急性の炎症が引き起こされます。
また、家族歴やHLA-B35との関連が示唆されており、特定の遺伝的背景をもつ個体がウイルス感染後に亜急性甲状腺炎を発症しやすい可能性も指摘されています。このため、感染だけでなく、宿主の免疫応答や遺伝因子も本疾患の発症に関与していると考えられています。
以上のことから、亜急性甲状腺炎は単なるウイルス感染によるものではなく、感染後に惹起される自己免疫的な炎症プロセスが中心となって病態を形成する疾患であると位置付けられています。
亜急性甲状腺炎の症状

亜急性甲状腺炎の症状は、風邪の後に現れることが多く、最初に「喉の奥が痛い」「飲み込みにくい」といった違和感から始まるケースが少なくありません。しかし実際には、喉ではなく甲状腺自体が炎症を起こしているため、痛みの部位は前頸部、つまり首の前側に集中します。この痛みは触れると強く感じる圧痛として自覚され、食事や会話などの動作でも痛みが増すことがあります。
さらに特徴的なのは、痛みの移動性です。炎症が甲状腺全体に波及するにつれて、痛む場所が日ごと、あるいは数日単位で左右に移動することがあります。このため「最初は右が痛かったのに、今は左が痛い」といった訴えが聞かれるのです。
また、炎症により甲状腺の細胞が破壊され、一時的に大量の甲状腺ホルモンが放出されることで、動悸・発汗・不眠・イライラといった甲状腺機能亢進症状が出ることもあります。これらの症状はバセドウ病とも似ていますが、亜急性甲状腺炎では自然経過で軽快することが多く、数週間〜数か月で改善するのが特徴です。
他にも、発熱や全身の倦怠感、筋肉痛、関節痛といった全身症状を伴うこともあり、体調の悪化を強く感じる方もいます。誤って「風邪」や「喉の炎症」と診断されてしまうこともあるため、首の前面の触れる痛みと痛みの移動性を見逃さないことが、早期診断につながります。
亜急性甲状腺炎の治療方法
亜急性甲状腺炎は、自然経過でも軽快することが知られています。しかし高熱や前頸部の激しい疼痛、全身倦怠感などが強く出現するため、治療介入が必要となるケースが一般的です。
まず一般的にはNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)で、ロキソプロフェンやイブプロフェンなどを用いて疼痛および炎症のコントロールを行います。これらで症状が十分に緩和されない場合、あるいは炎症反応(CRPなど)が高値を示し長期化が予想される場合には、プレドニゾロン等の経口ステロイドを使用します。
また、一過性の甲状腺中毒症状(動悸、発汗、不安感等)を伴う場合には、β遮断薬(例:プロプラノロール)の併用も有効です。治療期間は通常1〜3か月程度で、ステロイドは再発を防ぐためにも慎重な減量が求められます。再発例では同様の治療を繰り返すことが基本となります。
なお、回復期には一時的に甲状腺機能低下が出現することがあり、必要に応じて甲状腺ホルモン補充を検討しますが、大多数は自然回復します。定期的な甲状腺機能検査と炎症マーカーの評価を通じて、経過観察を行いましょう。
亜急性甲状腺炎が悪化してしまった場合
亜急性甲状腺炎は、主にウイルス感染後に発症する一過性の炎症性疾患ですが、放置すると発症から数日〜1週間ほどで痛みや発熱などの炎症症状が急速に悪化することがあります。
前頸部の違和感や軽い風邪症状から始まり、適切な治療を受けないまま経過すると、甲状腺の炎症が強まり、生活に支障をきたすほどの強い痛みや発熱に至るケースも少なくありません。
また、症状の進行に伴い、甲状腺ホルモンの過剰分泌や、その後の機能低下といったホルモンバランスの乱れも生じやすくなるため、早期の診断と治療を受けることをおすすめします。
痛みや炎症の長期化
亜急性甲状腺炎の特徴である前頸部の痛みや圧痛は通常数週間で軽快しますが、悪化すると数か月にわたって持続し、日常生活に支障をきたすことがあります。鎮痛剤のみでは対処できない場合、副腎皮質ステロイドの投与が必要になることもあります。
甲状腺機能低下症の長期化あるいは固定化
通常は一過性の甲状腺機能低下で終わりますが、まれに恒久的な甲状腺機能低下症(慢性の甲状腺機能低下)に移行することがあります。この場合、長期的な甲状腺ホルモン補充療法が必要となる可能性があります。
亜急性甲状腺炎の再発
亜急性甲状腺炎は通常1回の発症で終わるとされますが、約5~10%程度に再発のリスクがあるとされています。特に、初回発症時の炎症が広範囲に及んでいた場合や治療中断が早すぎた場合には再発のリスクが高まります。
誤診・過剰治療のリスク
甲状腺機能亢進症状(動悸・発汗など)が強く出た場合に、バセドウ病と誤診されてしまうケースもあります。バセドウ病と異なり、抗甲状腺薬の使用は亜急性甲状腺炎では不要かつ有害なことがあるため、誤った治療が行われると悪化の原因となります。
亜急性甲状腺炎に関するよくあるご質問
亜急性甲状腺炎ってどんな病気?どう向き合えばいいの?など患者様からよくいただく質問をご紹介します。
亜急性甲状腺炎自体は感染性ではなく、人にうつることはありません。ただし、発症のきっかけとなる風邪やインフルエンザなどのウイルス感染は他人に感染する可能性があります。
一般的には2〜3か月ほどで自然に治癒しますが、痛みや発熱が強い場合には治療(ステロイドや鎮痛薬)により数日〜数週間で症状が改善することが多いです。
亜急性甲状腺炎は基本的に一過性の病気ですが、まれに再発することがあります。体調不良や強いストレス、免疫力低下などが再発の引き金になることもあります。
はい、一時的に甲状腺ホルモンが足りなくなる「甲状腺機能低下症」がみられることがあります。ほとんどは数か月で回復しますが、まれに長期にわたることもあるため、定期的な血液検査が大切です。
安静を保ち、自己判断で薬を中止しないようにしましょう。特にステロイド治療を受けている場合は、急な中断は体に負担をかける可能性があります。医師の指示に従い、定期的に受診してください。
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